2022年7月の講座

「西アジアにおける複雑な狩猟採集民」

日 時

 2022年7月16日(土) 13:30~15:00 

講 師

 三宅 裕(筑波大学教授)(京都大学客員准教授)

テーマ

「西アジアにおける複雑な狩猟採集民」

場 所

 Zoom オンライン形式 ※レコーディング(録音)・引用等は不可

【要旨】

 西アジアの新石器時代については、従来農耕の起源ばかりが注目されてきました。食糧生産(農耕)の開始から生産力が向上し社会の複雑化に繋がるとの説によりますが、これは狩猟採集の生産性には限界があるという前提ありきの説であり、今回はそれに疑問を呈し最新の知見を示します。

 

 トルコのギョデクリ・テペ遺跡は祭祀センターとされ、建造には多くの労働力を必要としたのですが農耕牧畜の証拠がなく、狩猟採集時代の遺跡とされます。つまり狩猟採集経済下でも社会の複雑化は進展したとなります。出自集団の結束を高める儀礼祭祀、その祭祀のイデオロギーにより人々がより多く働くようになる社会と考えられます。建造物の構造や内部のT字型石柱の浮彫りなどにより、狩猟採集民の世界観を持ち出自集団の祖先を限定された少数で祀ったと想定できます。儀礼祭祀の発達には経済的基盤を必要としますが、防湿効果を持つ貯蔵施設があることで蓄積があったとわかります。

 

 新石器時代の狩猟採集社会は末期に、祭祀センターの消失・集落規模の縮小など衰退と見える「新石器の崩壊」がありましたが、生業の面ではこの時期に農耕牧畜社会が確立しています。狩猟採集社会での儀礼祭祀・イデオロギーと緩やかに成立していく農耕牧畜社会とが乖離して、ついに社会的秩序が維持できなくなったと考えられます。順調な複雑化ではなく、社会システムの転換・再編には数千年の時間が必要だったと考えられます。

(まとめ:滝沢 玲)