2022年12月の講座

「クントゥル・ワシ遺跡とパコパンパ遺跡における埋葬と社会」

日 時

 2021年12月17日(土) 13:30~15:00 

講 師

 関 雄二(国立民族学博物館特定教授)

テーマ

「クントゥル・ワシ遺跡とパコパンパ遺跡における埋葬と社会」

場 所

 対面 or Zoomオンライン形式 ※レコーディング(録音)・引用等は不可

【要旨】

 クントゥル・ワシとパコパンパという形成期を代表する遺跡における埋葬の分析を通じて社会の複雑化の過程を探ります。

 

クントゥル・ワシ遺跡  イドロ期 (前1000年~前800年) 形成期中期
クントゥル・ワシ期 (前800年~前550年) 形成期後期
コパ期 (前550年~前250年) 形成期後期
ソテーラ期 (前250年~前50年) 形成期末期
パコパンパ遺跡 パコパンパ I期 (前1200年~前700年) 形成期中期
パコパンパ II期 (前700年~前400年) 形成期後期
   IIA (前700年~前500年) クントゥル・ワシ期に相当
   IIB (前500年~前400年) コパ期に相当

 

 クントゥル・ワシの特殊な墓(地下式墓、金製副葬品、施朱、頭蓋変形)では、クントゥル・ワシ期の地下式墓は全ての要素が含まれ、金製品の分析からは被葬者間の金含有量の差が見受けられます。クントゥル・ワシ期ですでにエリート内部の序列化が始まったと推定されます。コパ期に入ると、全体的な埋葬の傾向について変化はありませんが、施朱、頭蓋変形は減少し、土坑墓でも頭蓋変形が現れます。祭祀建築ユニットの増加、儀礼空間の増殖からはエリートの増加が考えられ、それと共にエリート内部の格差がより顕在化したのではないかと思われます。

 

 パコパンパの特殊な墓でも、地下式墓(ブーツ型ではない)はほぼ全ての要素が含まれます。IIAの土坑墓でも施朱があり、IIBの土坑墓では頭蓋変形、施朱、金製品が部分的に確認されます。クントゥル・ワシより早い時代からエリートの細分化がおこっています。形成期後期以降の墓の増加は、リーダーが埋葬過程を模倣する事で「ヘビ・ジャガー神官の墓」に埋葬された人と「貴婦人の墓」との系譜関係を示そうとした、血縁関係を強調するというような、祖先崇拝の出現が関係しているのではないでしょうか。パコパンパIIBでは墓の数は増えるが副葬品を伴う埋葬は減少します。IIBでは祭祀空間の大々的な改変があり、新たなイデオロギーが求められ、エリートが没落した可能性があります。エリートの権威の基盤であった祖先崇拝が、一般の人達に解放され、祭祀空間の利用が拡大していったのではないでしょうか。

 

 今年、パコパンパ考古遺跡複合のラ・カピーヤ遺跡で、形成期中期と思われる墓を発見しました。「巻き貝の神官墓」(石製・貝製の首飾りや頭飾り、人形、20個のストロンブス貝、ビーズ、朱)であり、形成期中期にあたるI期の小部屋、階段に作られた墓に、被葬者はパコパンパ遺跡を向くように安置されていました。これまで形成期後期に社会的差異の物質化、可視化が明らかになると考えてきましたが、社会的差異の顕在化が形成期中期に遡る可能性が出てきました。今後の課題として、絶対年代では中期か後期かは決められないことを踏まえ、人骨の自然人類学的分析による形成期後期の墓の被葬者との比較、副葬品の空間分布分析、材質同定・産地同定、ストロンブス貝の図像分析、墓周辺の調査などを行っていきたいと思います。

(まとめ:大武佐奈恵)