2022年1月の講座

「エルサルバドル西部で出土した7バクトゥンの日付とジャガー:頭部石彫が意味すること」

日 時

 2022年1月22日(土) 13:30~15:00 

講 師

 伊藤伸幸(名古屋大学助教)

テーマ

「エルサルバドル西部で出土した7バクトゥンの日付とジャガー:

 頭部石彫が意味すること」

場 所

 Zoom オンライン形式 ※レコーディング(録音)・引用等は不可

【要旨】

 エルサルバドル西部、メソアメリカ南東部太平洋側のチャルチュアパ遺跡エル・トラピチェ地区でE3-1建造物の神殿前階段の両脇から様式化したジャガー頭部石彫(先古典期後期)2基が出土しました。1号石彫の両目は虚ろ(=死)で、口は2分割され2元性を表します。2号石彫の左目は虚ろ、右目は虚ろではなく「生きた目」と解釈できます。神殿の入口(=地下世界の入口)への道に面した目は虚ろで死を表します。一方、1号石彫の右目は最も西で太陽が地下世界に入るため虚ろで死を、2号石彫の右目は太陽が昇る東で生を意味します。この形の石彫は南東部太平洋側のエルサルバドル西部で52基確認されています。同地区の2基は2分割された口、生と死を示す目など稀な特徴を持ち、出土数などから同石彫の起源はチャルチュアパの可能性が高いといえます。

 

 一方、同地区E3-2建造物南側から長期暦の日付を持つ石碑破片が出土しました。石碑には、長期暦の導入文字と数字の「7」が線刻されていました。長期暦で記録された最古の日付は7バクトゥンで、メソアメリカに4例しかありません。玉座の四脚付テーブル状祭壇と同様に王権を示します。

 

 先古典期後期、チャルチュアパには、ジャガー頭部石彫で生と死の儀礼が行える宗教的施設が存在し、玉座や最古級の日付の石碑が示すようにチャルチュアパを中心とする国家がエルサルバドル西部に形成されたと考えられます。

(まとめ:滝沢玲)