2021年4月の講座

「アンデス文明形成における女性の問題」

日 時

 2021年4月17日(土) 13:30~15:00 ★終了しました。

講 師

 関 雄二(国立民族学博物館教授、副館長)

テーマ

「アンデス形成期における女性の問題」

場 所

 Zoom オンライン形式 ※レコーディング(録音)・引用等は不可

【要旨】

 形成期後期前葉、クントゥル・ワシ(クントゥル・ワシ期)では、大規模な建築の改変が行われ、4つのブーツ型の金製品を伴う墓が造られました。被葬者達には頭蓋変形がみられます。形成期後期後葉(コパ期)に入ると、建築軸が変化、パティオ・小部屋の建築ユニットの増加、北広場ではメノウ、ウミギク貝、土製紡錘車、等の遺物が集中しています。頭蓋変形の増加からはエリートの増加、社会階層の成立も考えられます。カンパナユック・ルミでも同時代、エリートの存在が確認され、アンデスの高地では、前800年~前700年頃に権力生成の証拠が顕在化したといえます。

 

 権力生成と女性との関係を見ていくと、クントゥル・ワシ期の4つの墓のうち1つが首飾りを伴った老年の女性であり、女性がリーダーの一角であった事が分かります。男性の墓(耳飾りの墓、5面ジャガーの墓、14人面金冠の墓)の方に金製品が多いことから、金は男性、首飾りが女性特有のように見えますが、後に発掘された2つの男性の墓(蛙土器の墓、ヘビ・ジャガー耳飾りの墓)では、金製品の他に首飾りを伴っており、首飾りは女性特有のものではないでしょう。またコパ期の墓からは男性(ひげ抜きの墓)、女性(玉飾りの墓)共に金製品が出土しているので、コパ期では金も男性特有のものではないといえます。貝の種類とジェンダーとの関係は、明確ではありません。

 

 パコパンパでは形成期中期(パコパンパⅠ期)に中央基壇、円形構造物、半地下式広場等の大規模な建築の改変が行われ、形成期後期(パコパンパⅡ期、紀元前700年~前400年)建築は再利用され、金製品を伴う「パコパンパの貴婦人の墓」が造られました。他にも金製品を伴った女性の墓(金製ペンダントの墓、神官の墓)があることから、女性のリーダーの存在は確実であり、金製品、首飾りのジェンダー性は否定されます。紡錘車など織物に関するもの、サボテン土器など幻覚剤、儀礼に関するものが女性の墓から出てきています。これは奉納にも現れ、形成期後期後葉に「貴婦人の墓」周辺で行われた儀礼では、銅製の針、止めピン、幻覚剤使用を思わせるヘラ、パイプなどの儀礼用具が奉納されました。石彫の図像にも鋸歯状ヴァギナと翼がみられ、「貴婦人の墓」の金製耳飾りは鳥の羽根の文様が打ち出されているなどから、パコパンパのシンボリズムは、鳥が女性でありそれが織物と関係し、さらに幻覚剤等の儀礼と関係しているといえるでしょう。鳥が女性なら、クントゥル・ワシでも女性が埋葬された「首飾りの墓」から鳥のモチーフが出てきているし、モチェの図像でも鳥と女性が関係しているようです。動物との関係、機織りなどの行為にはジェンダー性があるといえるでしょう。パコパンパⅡ期前葉から織物の材料となるラクダ科動物(遺跡周辺で飼育)の出土が急増し、同時期に紡錘車の出土も増していることから、ラクダ科動物の飼育、織物の生産が増加し、それらをになう女性が儀礼も司り、その中で権力が生成されていったと考えられるのではないでしょうか。

 

 しかし女性だけがリーダーではなく、男性も同様、さらに戦士エリートが男性であるように男性性も非常に高い地位を占めていたといえます。ジェンダー研究においては男性がトップという先入観を覆すことが出来ましたが、女性だけが優位性を持っていたとはいえず、それぞれの脈絡で考察すべきでしょう。

(まとめ:大武佐奈恵)