2021年7月の講座

「「国家」に抗したインダス文明社会―最新の発掘・研究の成果から―」

日 時

 2021年7月17日(土) 13:30~15:00 

講 師

 小茄子川 歩(京都大学客員准教授)

テーマ

「「国家」に抗したインダス文明社会―最新の発掘・研究の成果から―」

場 所

 Zoom オンライン形式 ※レコーディング(録音)・引用等は不可

【要旨】

 インダス文明社会(前2600〜1900年ころ)のあり方は、メソポタミア文明やエジプト文明などの他の古代文明社会とは大きく異なっていました。王や王墓、中央集権的な社会構造(国家)、労働集約的な灌漑事業、軍隊・戦争の痕跡、そして強力な宗教の存在などは見当たらないのです。

 

 その要因の一つは、「環境多様性+亜周辺」という側面に特徴づけられた社会的条件にあると考えられます。インダス平原は乾燥・半乾燥気候に属しますが、土壌の養分供給・保持力は高く、麦類に限定されることなく、大規模な灌漑を必要としない豆類・雑穀類を主体的につくる地域もあり、さらに多様な資源にも恵まれていました。豊かな潜在的農業生産力・人口扶養力に支えられ、集住を志向する必要がなかったのです。その証拠が、各地に散在する多数の小規模集落/人口です。また当時の中心(南メソポタミア)から適度に距離が離れた亜周辺に展開できたため、中心に対して自律的に対応し、独自の文明を創りだすことができました。

 

 都市は創出されましたが、それは既存の多層な伝統地域社会・文化にもとづいたリージョナルな中心以上のものではなく、権力の集中はみられませんでした。さらに文明的物質文化(ハラッパー文化の主要素)や商品交換と関連する遺物(おもり、印章など)は、50カ所ほどの都市と関連する遺跡に限られ、各地に展開した伝統地域社会からはいっさい出土しません。後者である1000カ所を超える小規模集落は、互酬原理にもとづく文明期以前からの社会を保持していたものと考えられます。当講座では、この「国家」なきユニークな古代文明のあり方を、最新の発掘・研究の成果からご紹介しました。

(文責:小茄子川 歩)