2018年11月の定例講座

「アンデス文明のワニ」

日 時

 2018年11月17日(土) 14:00~17:00 ★終了しました

講 師

 大貫 良夫(野外民族博物館リトルワールド館長/東京大学名誉教授)

テーマ

「アンデス文明のワニ」

場 所

 東京外国語大学本郷サテライト 5階 【アクセス】

【要旨】

 形成期の遺跡にはワニの図像が多く見受けられる。古くはカスマ谷にあるセチン・バッホ(BC3100ごろ)の遺跡でも確認できるが、まずはチャビン・デ・ワンタル(BC800ごろ)の遺跡からみてみる。

 

 チャビン・デ・ワンタルにあるテーヨのオベリスクでは全体に大きく描かれたワニの体からピーナッツ、トウガラシ、ユカ、カンナなど、地上、地下を合わせてたくさんの有用な植物が生育しているのが分る。描かれているワニの絵は現在ではカイマンまたはクロコダイルという見方が一般的だ。ワニの眼玉は下を向き、生気が無いことから死んでいるとみることができる。つまり死んだワニの体から栽培植物が生まれたことを表現しているのだ。ワニは栽培植物を生み出す源と考えられたのではないか。チャビンでは他にもライモンディの石碑や土器にワニの図像がみられる。ワニは上唇が反りあがって下唇や下顎がなく、並んだ歯の間からキバが出ているのが特徴だ。

 

 他の遺跡でもワニの図像例は重要なモチーフになっている。ヤウヤ、ガラガイ、ワカロマ、クントゥル・ワシなど。あるいはルリン谷のカルダル遺跡などのほかヘケテペケ谷のトロンとサン・シモン、リモンカルロ、クピスニケの土器などにもワニはみられる。アンデスだけでなくメキシコでもイサパの石碑25などにワニの図がみられる。

 

 ワニ伝説が栽培植物の起源神話と深く関連しているとすれば、南米にはコロンビアを経て広がったと考えられる。また、アマゾンには死んだアナコンダの体から植物が生まれたという伝説がある。ワニもアナコンダも水棲の大型の爬虫類である。これらの動物が焼かれて死んで灰になり、そこから栽培植物が生まれるというのは焼畑農業のプロセスをイメージする。

 

 さらに、焼畑のプロセスを敷衍するとコトシュの神殿更新のプロセスとよく似ている。炉を作り灰を生産し、土台に撒く。そこに神殿を建て、利用する。古くなった神殿は放棄する。その上に新たな活動の拠点となる炉を建造する。死そして灰からの再生、神殿更新と焼畑のサイクルはよく似ている。ワニの図像とこうした相似を重ねてゆくと、南米北西部からペルーやベネズエラ方面にかけて展開した大きな歴史が想像できる。そのような歴史の有無、実態など、探求の価値はあると思う。

(まとめ:上林清吉)