日 時 |
2018年4月21日(土) 14:00~17:00 ★終了しました |
講 師 |
井口 欣也(埼玉大学教授) |
テーマ |
「アンデス考古学 近年の研究動向:理論と方法を中心に」 |
場 所 |
東京外国語大学本郷サテライト 5階 【アクセス】 |
神殿更新説は、今日の研究動向において、なぜ、どのように神殿は更新されたのか、その後の人びとの行為や社会のあり方にどのような作用をもたらしたのかという点が重要な関心事項となっています。この為、遺跡で得られる様々な資料を、建設、廃棄、饗宴、埋葬などの具体的な行為として分析する必要が出てきました。
従来、儀礼は「構造」(宗教や象徴体系)などを表現する手段、二次的なものととらえられてきましたが、むしろ「儀礼」の具体的な行為実践それ自体が「構造」を作りだし、変化、再生産すると考え、その両者の相互的な関係を見ていくということになります。
松本雄一先生によるカンパナユック・ルミの調査研究では、饗宴及び幻覚剤使用の廃棄物の分析から、ディスプレイとしての廃棄行為、社会的記憶との関連が指摘されています。また、ホンジュラスのプエルト・エスコンディード遺跡を調査したJoyceが、基壇の改修、巨大化が価値を高め、特別な人々の埋葬場所として選択されたように、建設活動の累積が、新しい価値と社会関係の構造を構築したと分析しています。
人びとの実践行為が生成する「記憶」とその作用にも関心が集まっています。関雄二先生のパコパンパ遺跡の調査研究では、Ⅱ期における過去の神殿建築や壁石の再利用を、「刻み込まれた記憶行為」と分析しています。クントゥル・ワシ遺跡の場合、イドロ期神殿はクントゥル・ワシ期の神殿革新の際に埋められて一切再利用されていなかった。これは記憶の「忘却・隠蔽」とも解釈できます。
さらには、儀礼を「経験」した人びとの視点や、当時の人々が神殿建築や石彫の図像をどのように「認知」したのかという観点からの分析もあります。加藤泰建先生は、クントゥル・ワシ神殿に配置された複数の石彫の図像が、実際に神殿内を移動する人によってどのように映ったのかということから、宗教的メッセージの伝達について分析されています。Weismantelのチャビン・デ・ワンタル遺跡の石彫分析では、人々はテーヨのオベリスクを身体的な移動をともなって見ていたのであり、またそれはシャーマンの見ていた複眼的世界を表しているとあります。マヤ研究で著名な猪俣健先生のパフォーマンス論は、儀礼が演じられる空間としての広場、演者、聴衆、共有された経験に着目し、公的なイベントでの行為が構築した共同体の生成と新たな構造に注目しています。
経済と社会発展の関係を再検討する必要も出てきました。考古理化学は、この点で大きく寄与することが期待されます。
遺跡や考古資料を現地社会のために活用しようとする研究者の努力と実践は以前から行われてきましたが、松田陽先生(東京大学)が指摘するように、パブリックアーケオロジーという学問上の議論は、人びとの歴史認識と考古学のもつ政治性を問題にする点でポストプロセス考古学の理論的な影響を受けています。学術的成果がゴールなのではなく、社会的活用がその先にある重要課題として意識されるようになった点は、他の学問分野にも共通する流れともいえます。
(まとめ・大武佐奈恵)
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